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2026.09.13

コラム雑談

昔の音楽は本当に今より良かった?「名曲ばかり」に聞こえる理由を考える

「昔の曲のほうが良かった」と感じることはない?

「最近の曲はどれも似たようなものばかりに聞こえる」
「やっぱり昔の曲のほうが、ずっとメロディーが良くて心に残るよね」
「70年代や80年代、それに90年代の音楽って、本当に名曲だらけだった」

日常のふとした会話の中で、あるいはテレビの音楽番組を見ながら、こんなふうに感じたり、誰かがそう言っているのを聞いたりしたことはないでしょうか。実はこうした話題は、今に始まったことではありません。いつの時代も、世代を問わず「昔の音楽は素晴らしかった」と語り継がれる傾向があります。

確かに、過去のヒットチャートを振り返ると、胸を打つような素晴らしい楽曲がずらりと並んでいます。しかし、ここで少し立ち止まって考えてみましょう。ここには、私たちが無意識のうちにハマってしまっている「一つ大きな落とし穴」が隠されているのです。

私たちが現在、懐かしんだり賞賛したりして聴いている「昔の曲」というのは、当時存在した音楽の「すべて」ではありません。何十年もの長い間、人々の記憶から忘れられずに大切に歌い継がれてきた、ほんの一握りの特別な曲だけを聴いて、「昔は名曲ばかりだった」と判断してしまっている可能性があるのです。

昔にも、忘れられた曲は大量にあった

ここが、この記事で一番お伝えしたいポイントです。
ある特定の時代にレコードやCDとして発売された曲が、すべて現在まで聴かれ続けているわけでは決してありません。

振り返ってみれば、当時それなりにヒットしたはずなのにすっかり忘れ去られてしまった曲や、ほんの数ヶ月だけ局地的に流行しただけの曲もたくさんありました。さらには、批評家からの評判が悪かった曲、まったく売れずに消えていった曲、その場しのぎの流行だけを追って短命に終わってしまった曲など、名曲の何十倍、何百倍もの「普通の曲」や「忘れられた曲」が大量に存在していたはずなのです。

しかし、現代に生きるリスナーが過去の音楽を振り返ろうとするとき、わざわざそういった「売れなかった曲」を探し出して聴くことは稀です。私たちが自然と耳にするのは、ビートルズやクイーン、マイケル・ジャクソンといった世界的なレジェンドや、日本であれば松任谷由実さん、サザンオールスターズといった、その時代を強烈に代表し、今なお輝きを失わないアーティストたちの作品ばかりです。

つまり、私たちが「昔の曲と今の曲」を比べるとき、実は「2026年の平均的な新曲(玉石混交の状態)」と、「1970年代から50年もの厳しい年月を生き残ってきた超エリート名曲」を比較しているような状態になりやすいのです。これでは、そもそも比較する条件が対等ではありませんよね。

これが「サバイバーバイアス」

このように、「生き残ったもの(サバイバー)だけを見て、全体を判断してしまう偏り(バイアス)」のことを、心理学などの用語で「サバイバー(生存者)バイアス」と呼びます。

音楽の話に当てはめてみると、どうしても「昔の曲=今も知られている名曲」という脳内変換が起きてしまいます。しかし本来の「昔の音楽シーン」というのは、「奇跡のような名曲」+「普通の曲」+「一時的な流行曲」+「すっかり忘れられた曲」+「まったく売れなかった曲」という、あらゆるものが入り混じったカオスな空間だったはずです。

一方で、私たちが生きている「現在の音楽シーン」は、それらがまだ全部同時に見えている状態です。名曲になるかもしれない曲も、凡作も、流行り廃りの激しい曲も、全部がむき出しの状態で私たちに提供されています。だからこそ、「最近の曲はイマイチなものが多い」と錯覚しやすいのです。

現代の音楽には、まだ「時間の選別」が起きていない

この「サバイバーバイアス」を踏まえると、非常に面白いことが見えてきます。
たとえば、2026年の今まさに流行しているヒット曲の数々を思い浮かべてみてください。これらの中には、

・2027年にはすっかり忘れられてしまう曲
・10年後もカラオケの定番として歌い継がれる曲
・30年後に突然再評価されてリバイバルヒットする曲
・次世代の若いアーティストに決定的な影響を与える曲
・100年後まで「古典」として残る曲

様々な運命をたどる曲が混ざっているはずですが、今の時点では誰もそれを正確に判別することができません。つまり、現在のリスナーである私たちは、常に「歴史の途中」に立っているのです。

過去の音楽が洗練されて見えるのは、時間そのものが「巨大でシビアな選曲者(DJ)」として機能してくれたおかげです。長い年月をかけて、無数の人々が「これは良い」「これは残したい」と選び続けてくれた結果だけを、私たちは「昔の音楽」として美味しくいただいているわけですね。

「昔の曲が良く聞こえる」理由は、サバイバーバイアスだけではない

さて、ここまでは「歴史が名曲を選別しているから」という理屈をお話ししましたが、もちろんそれだけではありません。私たちが過去の音楽を愛するのには、もっと人間らしくて、感情的な理由も深く関わっています。

若い頃に聴いた曲は特別になりやすい

音楽というのは、人生の記憶と強烈に結びつく不思議な力を持っています。学生時代の通学路で聴いていた曲、初恋の人が好きだった曲、部活の帰り道に口ずさんだ曲、友人関係で悩んでいた時に背中を押してくれた曲。あるいは、夢中になって見ていた当時のテレビドラマや映画の主題歌など。

多感な時期に聴いた音楽は、その当時の匂いや感情、風景ごと記憶に刻み込まれます。そのため、純粋な「曲の出来栄え」と「思い出による感情の揺さぶり」を、私たちは頭の中で完全に切り分けることができません。「あの頃の音楽は良かった」という言葉の裏には、「あの頃の自分や思い出が愛おしい」という気持ちが含まれていることが多いのです。

知っている音楽は気持ちよく聴きやすい

また、人間の脳は「予測できるもの」に安心感や快感を覚える性質があります。何度も何度も繰り返し聴いた昔の曲は、次にどんなメロディーが来るか、どのタイミングでサビに入るか、どこで一番盛り上がるかを無意識のうちに予測できます。

初めて聴く新曲は、どう展開するかわからないため、ある種の緊張感を持って脳が処理しなければなりません。結果として、昔から知っていて展開が予測できる曲のほうが「心地よい」「やっぱり完成されている」と感じてしまうのは、脳の仕組みから言っても自然なことなのです。

それでも、本当に昔の音楽が優れている部分はある?

ここまで読んでいただくと、「なんだ、昔の音楽が良く聞こえるのは全部思い込みだったのか」と思われるかもしれません。しかし、単純に「全部バイアスです!」と片付けてしまうのも違います。重要なのはここからです。

時代によって、音楽を取り巻く環境は大きく異なります。録音技術、使われる楽器、作曲のセオリー、レコード会社がお金をかける制作体制、職人的なスタジオミュージシャンの文化、そして音楽産業のビジネスモデルなど、あらゆる前提が違います。そのため、「昔と今では、音楽そのものの作られ方が決定的に違う」というのも、また揺るぎない事実なのです。

たとえば、デジタルな打ち込みよりも、人間の息遣いを感じる生演奏中心の音が好きだという方。すぐに歌が始まる現代のタイパ(タイムパフォーマンス)を重視した曲よりも、情景をじっくり描く長いイントロが好きだという方。あるいは、特定の年代特有のアナログ録音のザラッとした質感がたまらなく好きだという方。

こうした好みを持っている人にとって、昔の音楽を好んで聴くのには、極めて合理的な理由があります。つまり、「昔の音楽が好き・自分の好みに合う」ということと、「昔の音楽のほうが客観的・絶対的に優れている」ということは、いったん分けて整理してあげる必要があるわけです。

2026年のヒット曲を、2126年の人はどう聴く?

ここで少し、想像力を広げて100年後の世界へタイムスリップしてみましょう。

100年後の2126年のリスナーから見れば、現在私たちが聴いている膨大な楽曲の大部分は、残念ながら知られていない可能性が高いでしょう。その代わり、ほんの一握りの傑出した作品だけが、「21世紀前半を代表する歴史的名曲」として、彼らの耳に届いているはずです。

すると、それらを聴いた2126年の人々は、こう呟くかもしれません。
「2020年代の音楽って、本当に名曲ばかりだったんだな。それに比べて最近(2126年)の音楽は…」と。

しかし、タイムマシンに乗る前の私たちは知っています。実際の2020年代の音楽シーンには、名曲もあれば、よくわからない曲もあり、ありとあらゆる音楽がカオスのごとく存在していたということを。この「歴史が逆転するような視点」を持ってみると、今の音楽シーンを眺めるのが少し楽しくなってきませんか?

「昔か今か」ではなく、好きな音楽を探してみよう

昔の音楽に名曲がたくさんあることは、決して否定しなくていい素晴らしい事実です。ただし、それは「昔の時代には名曲しか存在しなかった」ということを意味するわけではありません。

現代の音楽は、まだ歴史による厳しい選別を受けていない、いわば生まれたての赤ん坊のような状態です。今日、あなたがスマートフォンからなんとなく流して聴いているその新曲が、数十年後の世界中で歌い継がれるスタンダードナンバーになる可能性だって十分にあります。

そう考えると、私たちは今まさに「未来の名曲」が生まれる瞬間を、リアルタイムで目撃し、聴いているのかもしれません。「昔のほうが良かった」と過去だけを向くのではなく、過去の遺産を楽しみつつ、現在の音楽の中から自分だけの未来の名曲を探し出す。そんなフラットな姿勢で音楽に触れると、毎日がもっと豊かになるはずです。

音楽の楽しみ方は人それぞれですが、「自分で声を出して歌ってみる」ことで、また違った曲の魅力に気付くこともあります。名曲のメロディーを自分で美しく歌い上げてみたい、あるいは新しい曲のリズムに上手く乗れるようになりたいと感じた方は、プロのサポートを受けてみるのもおすすめです。

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