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アルバムを「通しで聴く」機会は減っている?

皆さんは普段、どんなふうに音楽を楽しんでいますか?スマートフォンを開けば、Apple MusicやSpotifyといった定額制のサブスクリプションサービスで、世界中の数千万曲が瞬時に聴ける素晴らしい時代になりました。AIが好みを分析して自動で作ってくれるプレイリストや、TikTokやYouTubeの短い動画をきっかけに、「アーティスト単位」というよりも「1曲単位」で新しい音楽と出会う機会が圧倒的に増えているはずです。
「このサビ、すごくいいな!」と思ったら、その1曲だけをお気に入りに追加して、自分の好きな曲だけを集めたオリジナルプレイリストの中でリピートする。これはとても効率的で、現代ならではの豊かで楽しい音楽の聴き方です。
一方で、一つの「アルバム」を1曲目から最後の曲まで、飛ばさずにじっくりと通して聴くという経験は、少しずつ減ってきているのではないでしょうか。この記事では決して「昔のレコードやCDを通しで聴くスタイルのほうが優れている!」というような野暮な説教をするつもりはありません。ただ、「好きな曲だけをつまみ食いする」のとは全く違った、アルバムを最初から最後まで聴くことでしか味わえない特有の面白さや魅力があるのも事実なのです。
アルバムは「ただ曲を集めたもの」とは限らない
そもそも「アルバム」と聞くと、単に「その時期にアーティストが作った10〜15曲くらいのデータをひとつのフォルダにまとめたもの」というイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、多くのアーティストにとってアルバムとは、ただの寄せ集めではありません。そこには明確な「曲順」という魔法がかけられています。
1曲目にどんな曲を置いてリスナーを惹きつけるか。中盤でどうやって空気を変えるか。そして最後の曲で、どんな余韻を残して幕を下ろすか。激しく歪んだギターが鳴り響くロックチューンの直後に、あえてピアノだけの静かなバラードを置くことで、お互いの曲の魅力が何倍にも引き立つようなコントラストの演出が仕組まれていることが多々あります。
これは映画に例えると非常にわかりやすいです。映画の「一番盛り上がるアクションシーン」や「感動して泣けるシーン」だけを切り取ってYouTubeで見るのも確かに面白いですが、そこに至るまでの何気ない日常のシーンや伏線があるからこそ、クライマックスの感動はより深いものになりますよね。音楽のアルバムも同じで、単独で聴くとちょっと地味に感じる曲が、アルバムという流れの中では「クライマックスを引き立てるための超重要な助走」としての役割を担っていることがあるのです。
曲順によって音楽の印象は変わる
1曲目はアルバムの入口
アルバムを通しで聴くとき、最もワクワクするのが「1曲目」です。アーティストが「自分たちの今のモードはこれだ!」と名刺代わりに誰もが知る大ヒット代表曲をドーンと1曲目に持ってくることもあれば、1分ほどの短いインストゥルメンタル(歌のない楽器だけの曲)から始まって、徐々にアルバムの深い世界へとリスナーを誘導していくようなニクイ演出もあります。あえて、耳元で囁くような静かで暗い曲からスタートさせて、聴く人の心を一気に引き込む作品など、1曲目にはそのアルバムの性格が色濃く表れます。
前の曲があるから次の曲が格好よく聞こえる
そして、曲と曲の「つなぎ目」にこそ、アーティストの異常なまでのこだわりが隠されています。前の曲の最後の余韻がスッと消えかけた絶妙なタイミングで、次の曲のイントロがジャン!と鳴り響く。テンポの速さ、音量の大小、曲の明るさや暗さ、そして使われている楽器の編成。これらの対比を計算し尽くして並べられた曲順は、一つひとつの楽曲が持つインパクトを飛躍的に高めてくれます。
もしサブスクの機能で「シャッフル再生」をしてしまうと、せっかくアーティストが仕組んだこの美しいコース料理のような演出が、バラバラに解体されて消え去ってしまいます。
「飛ばしていた曲」が好きになることもある
アルバムを買ったりダウンロードしたりした直後は、どうしてもテレビやCMで聴き馴染みのあるシングル曲や、パッと聴いて派手な有名曲ばかりをリピートしてしまいがちですよね。それ以外の知らない曲は「とりあえずスキップ」という経験、誰にでもあると思います。
しかし、休日の午後などにBGMとしてアルバムを最初から最後まで通して流していると、不思議な現象が起きます。最初は印象が薄くて飛ばしていたような目立たない曲が、「あれ? この曲、こんなに心地いいメロディだったっけ?」と急に心に引っかかり始めるのです。
派手なサビがない曲、1分半で終わってしまう短い曲、言葉のないインスト曲など、シングルの表題曲には絶対にならないような楽曲たちが、実はアルバム全体の空気感や温度を決定づける大切な役割を果たしていることに気づきます。何度か通して聴き込んでいるうちに、「最初はあのヒット曲目当てで聴き始めたけど、今はこの地味な7曲目が一番好きだな」なんていう逆転現象が起きるのも、アルバム通し聴きの醍醐味です。
アルバムごとにアーティストの「時代」が見えてくる
少し視点を広げてみると、アルバムというのはそのアーティストが歩んできた「人生のドキュメンタリー」のようなものでもあります。
同じアーティストでも、1枚目のアルバムと5枚目のアルバムを通して聴き比べてみると、全く音が違うことに驚かされるはずです。デビュー当時の初期衝動に満ちた荒々しい演奏から始まり、大ヒットを飛ばして自信に満ちた人気絶頂期のゴージャスな音作り、そこから少し落ち着いて自分たちのルーツを掘り下げた実験的な時期へと……。使用する楽器や録音方法、バンドであればメンバーの構成や精神状態までもが、アルバムというパッケージを通して生々しく伝わってきます。
もし、最近お気に入りのアーティストができたなら、こんな楽しみ方をおすすめします。まずは「ベスト盤」を聴いて好みの曲を見つける。次に、その気になった曲が収録されている「オリジナルアルバム」を通して聴いてみる。そしてさらに、その一つ前や一つ後のアルバムも聴いてみる。点と点だった曲が線で繋がり、アーティストの進化の過程をタイムトラベルのように追体験できるはずです。
コンセプトアルバムなら「一つの作品」として楽しめる
アルバム文化の極めつけとも言えるのが「コンセプトアルバム」と呼ばれる存在です。これは、アルバム全体を通して一つの壮大な物語を描いたり、一貫した強烈なテーマを持たせたりして作られた作品のことを指します。
架空のバンドがライブをしているという設定で進んだり、曲と曲の間の無音がなくシームレスにすべてが繋がっていたり。あるいは、1曲目で使われていたフレーズやメロディが、形を変えて最後の曲で再び登場して伏線を回収するような、まるで長編小説や演劇のような緻密な仕掛けが施されていることもあります。こうしたアルバムは、途中でシャッフルしたり飛ばしたりすると意味がわからなくなってしまうため、最初から最後まで通して聴くことで初めて本当の姿を現します。
とはいえ、「すべてのアルバムにそんな重たい物語や深い意図が隠されているはずだ!」と身構える必要は全くありません。作者の意図を必死になって読み解かなくても、「なんだかこのアルバムを通しで聴くと、不思議と心が落ち着くんだよな」と、単純に約1時間の「音の流れ」に身を任せるだけで十分に正解なのです。敷居は低く、楽しみ方は自由です。
お気に入りのアルバムを1枚、何もせず聴いてみよう
いかがでしたでしょうか。今度の週末、もし少しだけ心に余裕ができたら、あなたの好きな曲が入っているアルバムを1枚選んでみてください。そして、シャッフル再生をオフにして、1曲目の再生ボタンを押す。できれば途中で他のアーティストの曲に浮気をせず、最後まで通して聴いてみる時間を作ってみてはいかがでしょうか。
部屋のソファに深く腰掛けながら、曲名や歌詞カード、ジャケットのアートワークをぼんやり眺めるのも素敵です。「どの曲が好きか」といういつもの視点から少しだけズラして、「どうしてこのアーティストは、この曲をこの順番に並べたんだろう?」と想像を巡らせてみると、今まで何百回と聴いたはずの曲が、全く新しい表情を見せてくれるはずです。
音楽は、1曲3〜5分の短い単位だけで作られているとは限りません。40分、あるいは1時間近い時間を使って一つの巨大な世界観や空気を作り上げることができるのも、アルバムという形式ならではの圧倒的な面白さなのです。
音楽を深く味わううちに、「自分もこんな風に感情を乗せて、自由に声を響かせてみたい!」という気持ちが湧いてきたら、ぜひあなた自身の声を磨く新しい趣味を始めてみませんか?
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