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拡声器を使うボーカル:その魅力と「歪み」の美学

ライブ映像やミュージックビデオを見ていて、「あれ? マイクじゃなくて拡声器で歌ってない?」と驚いた経験はありませんか?
普通、歌手といえば高性能なマイクを握りしめている姿を想像しますよね。でも、あえて学校の防災訓練や工事現場で使うような「拡声器(メガホン)」を使って歌うアーティストたちがいます。

「音が悪くなるんじゃないの?」
「ただのパフォーマンス?」

そう思う方もいるかもしれません。しかし、あれは単なる目立ちたがり屋の行動ではないのです。そこには、音楽的な深いこだわりと、計算された「演出」が隠されています。
今回は、King Gnuの常田大希さんや椎名林檎さんといったトップアーティストを例に挙げながら、なぜ彼らはあえて拡声器を手にするのか、そのディープな世界を、音楽に詳しくない方にも分かりやすく紐解いていきたいと思います。

なぜ「拡声器」なのか? マイクでは出せない音の秘密

まず最初に、根本的な疑問から解消していきましょう。なぜ、わざわざ音質が悪そうな拡声器を使うのでしょうか。

結論から言うと、「音を汚すため」です。

今の音楽業界で使われているマイクは、本当に性能が良いんです。息遣いから唇の震えまで、アーティストの声をクリアに、そのままの形で届けることができます。まるで目の前で歌われているかのような臨場感ですよね。
しかし、ロックやパンク、あるいは現代のミクスチャーロックといったジャンルでは、綺麗すぎる声」が逆に邪魔になることがあります。

想像してみてください。激しく歪んだギターがギャンギャン鳴っている中で、アナウンサーのように透き通った声が聞こえてきたら……ちょっと違和感がありませんか? 楽器の荒々しさに負けないように、声にも「ザラつき」や「汚れ」を持たせたい。そう思った時に最強の武器になるのが拡声器なんです。

拡声器を通した声は、専門的な言葉を使うと「ローファイ(Lo-Fi)」な音になります。電話越しの声や、古いラジオから聞こえてくるような、高音と低音がバッサリ切り落とされた、あの中音域に集約されたキンキンとした音です。
この、あえて劣化させた音が、楽曲に「緊張感」や「狂気」、「レトロな雰囲気」を一瞬でプラスしてくれるのです。

最近では、パソコン上の編集ソフトを使えば、後から声を加工して「ラジオボイス」や「テレフォンボイス」を作ることは簡単にできます。カラオケのマイク設定でもたまに見かけますよね。
でも、ライブの現場であえて物理的な「拡声器」を持つことには、音質以上の意味があります。それは、圧倒的な「ビジュアルのインパクト」です。
赤い拡声器を構えて叫ぶ姿。それは、体制への反逆や、切迫したメッセージを叫んでいるような、強烈なカリスマ性を視覚的に訴えかけてくるのです。

椎名林檎:拡声器パフォーマンスのパイオニア的存在

日本で「拡声器を使って歌うアーティスト」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのはやはり椎名林檎さんではないでしょうか。
特に1999年にリリースされた名曲『本能』。このミュージックビデオや当時のライブパフォーマンスは、音楽ファンに強烈なトラウマ……いえ、衝撃を与えました。

ナース服を着て、ガラスを割り、そして拡声器で歌う。
この一連のビジュアルは、当時のJ-POPシーンにおいて異質であり、革命的でした。

彼女が拡声器を使う面白さは、「ギャップ」にあります。椎名林檎さんは本来、非常に表現力豊かで、艶のある美しい声を持っています。ウィスパーボイスから力強いベルティングまで自由自在です。
そんな彼女が、曲の一部分、あるいは特定の楽曲で拡声器を手に取る。
すると、艶めかしい声が一瞬にして無機質で、攻撃的な「ノイズ」に変わります。

例えば、『幸福論』や『罪と罰』などの楽曲でも、この演出が見られることがあります。生身の人間の情念みたいなものを歌っているのに、拡声器を通すことで、どこか冷めた、機械的な響きが混ざり合う。
この「生々しさ」と「機械的ノイズ」の同居こそが、椎名林檎というアーティストの世界観をよりミステリアスなものにしているのです。
彼女にとって拡声器は、単なるマイクの代用品ではなく、ナース服や着物と同じような「衣装」の一部であり、歌声を着替えるための「変身アイテム」なのかもしれません。

King Gnu 常田大希:現代のロックアイコンと拡声器

時代は進み、現代の日本の音楽シーンで拡声器を最もスタイリッシュに使いこなしているのが、King Gnuのリーダーであり、作詞作曲を手掛ける常田大希さんです。

King Gnuというバンドの最大の特徴は、ボーカルが二人いることです。
一人は、井口理(いぐち さとる)さん。彼は東京藝術大学の声楽科出身で、まるで天使か聖歌隊のような、美しく透き通るハイトーンボイスの持ち主です。
そしてもう一人が、常田大希さん。彼は低音で、野太く、ワイルドな歌声を持っています。

この二人の対比こそがKing Gnuの魅力なのですが、常田さんはここでさらに「拡声器」という武器を使います。
代表曲の一つである『Slumberland』や、彼らの名を世に知らしめた『Tokyo Rendez-Vous』などのミュージックビデオやライブ映像を見てみてください。
常田さんが拡声器に向かってガナるように歌うシーンが多々見られます。

井口さんの「美」に対して、常田さんは拡声器を使って徹底的に「汚」を演じるのです。
このコントラストが凄まじい。
片方で美しく伸びやかなメロディが流れている横で、拡声器を通したザラザラのラップやシャウトが絡みつく。
これにより、楽曲に「東京の雑踏」や「混沌(カオス)」といったイメージが生まれます。

また、常田さんの場合、拡声器のデザインにもこだわりが見えます。ボロボロに加工されたものや、ステッカーが貼られたものなど、彼のファッションアイコンとしての側面ともリンクしています。
ただ音が歪めばいいというわけではなく、「その拡声器を持ってギターを弾きながら歌う姿」そのものが、King Gnuというバンドのアートワークになっているんですね。
彼にとって拡声器は、美しいメロディを際立たせるための「スパイス」であり、同時にロックバンドとしての「牙」のような存在と言えるでしょう。

実は難しい? 拡声器ボーカルの技術的な裏話

さて、ここまで読んで「かっこいい! 私もカラオケで拡声器持ち込みたい!」と思った方。実は拡声器で歌うのって、めちゃくちゃ難しいんです。
ただ口元に持ってきて叫べばいい、というわけではありません。

一番の問題は「ハウリング」です。
学校の体育館で校長先生がマイクを使った時、「キーン!」という嫌な音が鳴り響くのを聞いたことがありませんか? あれがハウリングです。
拡声器は音を増幅させる機械ですが、それをさらにライブ会場のマイクで拾ってスピーカーから出す、という複雑なことをしています。
音の逃げ場がなくなり、非常にハウリングが起きやすい状態なんです。

そのため、プロの現場では、PA(音響)さんが必死に音量バランスを調整しています。
そしてボーカリスト側にも技術が求められます。
拡声器とマイクの距離感、口の当て方、声の出し方。
拡声器は音を歪ませる分、歌詞が聞き取りづらくなります。普通に歌うよりも、もっと滑舌をはっきりさせたり、アタック(音の出だし)を強くしたりしないと、ただの雑音になってしまうのです。

(実際のライブでは、本物の拡声器を使うとハウリングで大変なことになるので、拡声器型のマイクを使い、エフェクトで声を汚すことも多いです。)

常田さんや椎名林檎さんが、あんなに動き回りながら、拡声器を使っても歌詞がちゃんと耳に入ってくるのは、彼らの基礎的な歌唱力がずば抜けて高いからこそ。
音を汚す」という行為は、実は一番繊細なコントロールの上に成り立っているんですね。
一見、荒っぽく見えるパフォーマンスの裏には、プロフェッショナルな職人技が隠されているのです。そう思うと、あのガラガラ声がより一層愛おしく聞こえてきませんか?

まとめ:ノイズさえも音楽に変える魔法

今回は、拡声器を使うボーカリストについて、椎名林檎さんと常田大希さんを中心に紹介しました。

彼らが拡声器を使う理由は、単なる奇抜な演出だけではありませんでした。
クリアな高音質が当たり前の現代だからこそ、あえて汚れた「ローファイ」な音を混ぜることで、人間の生々しい感情や、都会の喧騒、ロックの衝動を表現していたのです。

綺麗に歌うだけが音楽じゃない。
ノイズも、歪みも、叫びも、すべてを芸術に変えてしまう。
拡声器という無骨な道具一つで、そこまで表現の幅を広げられるアーティストたちの感性には脱帽するしかありません。

もし今度、彼らの曲を聴く機会があったら、ぜひ「拡声器の音」に耳を澄ませてみてください。
「ここはマイクだな」「あ、ここから拡声器に持ち替えたな」
そんな聞き方をすると、楽曲に込められた感情のスイッチの切り替わりが見えてきて、今までよりもっと深く音楽を楽しめるはずです。
そして、カラオケで「ラジオボイス」のエフェクトを見つけたら、あなたも一度試してみてはいかがでしょうか? 気分はすっかりロックスターになれるかもしれませんよ。


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