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2025.11.26
コラムJ-POPにおける『2番の歌詞』の重要性

最近、音楽をどのように聴いていますか?
サブスクリプションサービスが当たり前になった今、楽曲の1番だけを聴いて「いい曲だな」と思ったり、あるいはショート動画で流れる一部分だけで満足してしまったり……なんてこと、意外と多いのではないでしょうか。
もちろん、キャッチーなメロディや印象的なサビを楽しむのも音楽の素晴らしい楽しみ方の一つです。でも、もしあなたが「1番」だけでその曲を判断しているとしたら、それは映画を最初の30分だけ見て「この映画の結末はこうだ」と決めつけているのと同じくらい、もったいないことかもしれません。
J-POP、特に日本の歌謡曲の系譜を継ぐ楽曲には、ある面白い特徴があります。それは、「2番以降にこそ、本当の物語やどんでん返しが隠されている」という点です。
今回は、普段見落とされがちな「2番の歌詞」の魔力について、具体的なヒット曲を紐解きながら、少し深掘りしてみたいと思います。
目次
そもそも、なぜ作詞家やアーティストは2番以降に重要な情報を隠すのでしょうか。
これには日本の「起承転結」という物語構成の文化が深く関わっているように感じます。多くのJ-POPの構成は、おおよそ以下のようになっています。
- 1番(Aメロ・Bメロ・サビ):状況説明、主人公の表面的な感情(起・承)
- 2番(Aメロ・Bメロ・サビ):時間の経過、視点の変化、より深い葛藤(承・転)
- Cメロ(大サビ前):物語の核心、感情の爆発(転)
- ラスサビ(最後):結末、あるいは未来への提示(結)
テレビやラジオで流れる「1コーラス」は、あくまで「起・承」の部分までの紹介に過ぎないことが多いのです。1番では「君が好きだ」と言っていたのに、2番では「でも別れなきゃいけない」と歌い、最後には「やっぱり忘れられない」と叫ぶ。こういった感情のグラデーションは、フルサイズで聴いて初めて一本の映画のように立ち上がってきます。
では、実際に「えっ、そういう歌だったの!?」と驚かされるような、具体的な楽曲を見ていきましょう。
まずは、2020年代を代表するヒット曲となったYOASOBIのデビュー曲『夜に駆ける』です。
軽快なピアノのイントロと疾走感のあるビート。一聴すると、夜の街を駆け抜ける爽やかな、あるいは少し切ない恋愛ソングのように聞こえるかもしれません。実際、1番の歌詞だけを追うと、「死にたい」と願う「君」を、主人公である「僕」が必死に止めようとしている、希望を見せようとしている構図に見えます。
1番のサビでは、君の手を引いて、夜から連れ出そうとする僕の必死さが伝わってきますよね。
しかし、物語が急展開するのは2番以降、特にCメロからラストにかけてです。
主人公の「僕」は、君を変えられない無力感に苛まれます。そして、ある瞬間に気づいてしまうのです。君が「死にたい」と願っていた場所、君が見ていた世界こそが、僕にとっても魅力的な場所だったのではないか、と。
ラスサビ直前、歌詞には衝撃的な一節が登場します。
「繋いだ手を離さないでよ」という言葉と共に、二人は夜空へと舞うのです。
1番では「君を止める僕」だったのが、最後には「君と一緒に逝く僕」へと変わってしまう。タイトルの『夜に駆ける』という言葉の意味が、単なる「走る」ではなく、二人で死へと向かう(あるいは二人だけの世界へ消える)メタファーだったことが、最後まで聴いて初めて判明します。
これは、原作小説『タナトスの誘惑』に基づいているからこそのストーリーテリングですが、1番だけで「爽やかな曲」と判断してしまうと、この楽曲が持つ本来の狂気や美しさを見逃してしまうことになります。
次にご紹介するのは、歌詞のリアリティに定評があるback numberの『ハッピーエンド』です。
タイトルだけ見れば「幸せな結末」の歌です。しかし、曲調はどこか物悲しいバラード。1番の歌詞を聴くと、別れ話の最中であることがわかります。女性目線で描かれたこの曲、1番では主人公はとても「いい子」で、強がっているように見えます。「あなたが幸せになってね」と、相手を気遣うような素振りさえ見せています。
「ああ、これは綺麗に別れて、お互い前を向く『ハッピーエンド』なのかな?」
そう思った方は、まんまと清水依与吏さん(作詞作曲)の術中にはまっています。
この曲の真骨頂は、2番を経て、最後の最後に吐露される本音にあります。それまでずっと「平気なフリ」をして、聞き分けの良い彼女を演じていた主人公。しかし、最後の最後で感情が決壊します。
「青いまま枯れてゆく」
「あなたを好きだったこと」
そうやって過去形にしようと必死に自分に言い聞かせた後、楽曲の最後の最後で、彼女は心の中で叫びます。
「嘘だよ、ごめんね」と。
結局、このタイトル『ハッピーエンド』は、「相手にとってのハッピーエンド(面倒な私が綺麗に身を引いてあげること)」であって、主人公にとってはちっともハッピーではなかったのです。
1番の「強がり」がフリになっているからこそ、最後の「本音」が胸に突き刺さります。これはフルサイズで、時間の経過とともに彼女の仮面が剥がれていく様を追体験しないと味わえないカタルシスです。
最後は、国民的ヒット曲となったOfficial髭男dismの『Pretender』です。
「グッバイ」というキャッチーなフレーズから始まるこの曲。1番の歌詞では、相手との距離感や、自分が運命の相手(ロマンスの主役)ではないという諦めが描かれています。「君の運命の人は僕じゃない」という切ない事実を受け入れている、ある種の潔ささえ感じます。
しかし、2番に入ると、この曲が、ただ「叶わない恋」を歌ったものでないことが分かってきます。
特に注目してほしいのは2番のAメロにある歌詞です。
「誰かが偉そうに語る恋愛の論理 何ひとつとしてピンとこなくて」
この歌詞を見ると、『Pretender』の主人公がしているのは、いわゆる「普通の恋」ではないように思えます。
世間では当たり前のようにあふれている恋愛のノウハウは、主人公の置かれた状況には力を貸すことができないのです。
そしてCメロを経て、最後のサビでは「君は綺麗だ」と締めくくられます。諦めているのに、否定しているのに、結局「綺麗だ」と認めてしまう。この「どうしようもなさ」は、1番から順を追って、彼らの関係性のディテールを積み上げてきたからこそ、最後の「グッバイ」がより一層切なく響くのです。
いかがでしたでしょうか。
「テレビサイズ」や「TikTokのサビ部分」は、いわばその曲の「顔」や「名刺」のようなものです。もちろん、素敵な顔立ちやデザインに惹かれるのは当然のことです。
しかし、その曲が本当に伝えたいメッセージ、隠された物語、アーティストが仕掛けたトリックは、名刺交換だけでは分かりません。2番の歌詞、Cメロの展開、そしてラストの余韻までじっくりと向き合うことで、初めてその曲の「性格」や「人生」が見えてきます。
昨今は「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重視され、ギターソロやイントロさえ飛ばされてしまう時代だと言われます。でも、あえて言わせてください。
その飛ばした数分間にこそ、心を震わせる最高の大どんでん返しが待っているかもしれません。
次に好きな曲を聴くときは、ぜひ歌詞カード(今はスマホの画面ですね)を見ながら、物語の最後まで見届けてみてください。きっと、今まで聞こえなかった主人公の声が聞こえてくるはずです。
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