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2025.11.28
コラムヨーデルとは|伝統的な歌唱法を解説

「ヨーデル」と聞くと、「ヨーロレイヒー♪」というおなじみのフレーズを思い浮かべる方も多いでしょう。
しかしその背後には、アルプスの自然、牧畜文化、そして人の声の可能性を極限まで活かした歌唱技術が隠れています。
今回は、ヨーデルの歴史・歌唱法・文化的意義を、やさしくかみ砕いて解説します。
1. ヨーデルとは何か(特徴と文化的背景)
ヨーデル(Yodel)は、低い声(胸声)と高い声(頭声・ファルセット)を素早く切り替えて歌う発声法のことです。
スイス、オーストリア、ドイツ南部など、アルプス山脈を中心とした地域で発達しました。
起源は古く、牧畜民が山間で遠く離れた人や家畜に合図を送るために、山のこだまを利用して発声したことに由来するといわれています。
この「声を遠くまで響かせる技法」が、やがて民謡や儀礼歌の中に取り入れられ、芸術的な歌唱スタイルへと発展しました。
ヨーデルの特徴には以下のようなものがあります。
- 「ヨー」「レイ」「ヒー」など、母音を中心とした明るい音節
- 胸声と頭声を切り替える「ひっくり返り」が表現の一部になっている
- 山に響くこだま(エコー)を生かしたメロディとリズム
そのサウンドはどこか開放的で、聴く人の心まで広々とした風景に連れていってくれるようです。
つまりヨーデルとは、自然と人の声が一体になった音楽文化なのです。
2. 「アルプスの少女ハイジ」とヨーデル
日本で「ヨーデル」と聞いて最初に思い浮かぶのは、1974年放送のアニメ『アルプスの少女ハイジ』ではないでしょうか。
オープニングテーマ「おしえて」は、アルプスの自然を感じさせる澄んだメロディとともに、日本の家庭に“ヨーデルの響き”を届けました。
この楽曲は、作詞:岸田衿子、作曲:渡辺岳夫によるもので、
ボーカルを担当したのはスキャットの名手として知られる伊集加代子さんです。
伊集さんは「ネスカフェ ゴールドブレンド」のCMソング「ダバダー♪」などでも知られ、
“スキャットの女王”として多くのテレビ音楽を彩りました。
一方で、0:19頃から始まるという印象的なヨーデル部分は、
スイス人歌手ネリー・シュワルツ(Nelly Schwarz)による録音です。
当時、制作チームはスイス現地でアルペンホルンや合唱の収録を行い、
作品全体に本場の雰囲気を取り入れたと伝えられています。
つまり「おしえて」は、日本の歌手によるやわらかな歌声と、
スイスの本格的ヨーデルが融合した国際的な作品だったのです。
この曲を通じて、ヨーデルの明るさ・自由さ・自然との一体感といった要素が
日本人の心に深く刻まれました。
『ハイジ』はまさに、日本におけるヨーデル文化の入口と言えるでしょう。
3. ヨーデルの練習法
「ヨーデルをやってみたい!」と思った方のために、基本的な練習ポイントを紹介します。
① 胸声と頭声を切り替える感覚をつかむ
低い声(胸声)から高い声(ファルセット)に一気に飛ぶ練習をします。
「ヨー → レイ → ヨー」とゆっくり声を出し、喉に力を入れすぎず自然な切り替えを目指します。
② 母音を意識して発声する
「ヨー」「レイ」「ヒー」など、母音が明るく響く言葉を使うとヨーデルらしさが出ます。
日本語よりも口を縦に開ける意識を持ちましょう。
③ 息の支えを保つ
高音に切り替える時こそ、腹式呼吸で安定した息の流れをキープすることが大切です。
息を止めず、風に乗せるように発声すると、喉に負担がかかりません。
④ 練習のステップ
- 胸声で「ヨー」と発声する
- 続けて頭声で「レイ」と発声する
- 「ヨーレローレロー」と交互に繰り返す
- テンポを少し上げ、リズムに乗って練習する
無理に高音を出そうとせず、「声が跳ねる感覚」を楽しむのがヨーデル上達のコツです。
4. ヨーデルを取り入れた音楽
ヨーデルは、民謡の世界を超えてさまざまな音楽ジャンルに影響を与えています。
アメリカでは1920〜30年代に「ブルー・ヨーデル(Blue Yodel)」というスタイルが登場しました。
これは、カントリー音楽の始祖ジミー・ロジャーズ(Jimmie Rodgers)が生み出したもので、
ヨーデルの技法をブルースに融合した先駆的な試みでした。
また、現代ポップスでも、アリアナ・グランデやビョークのように
地声からファルセットに一瞬で切り替える表現を用いる歌手がいます。
これは伝統的なヨーデルではありませんが、ヨーデル的な発声の影響を感じさせるものです。
スイスやオーストリアでは、現在でもヨーデル大会が開催され、
伝統的な歌唱法として若い世代にも受け継がれています。
同時に、ジャズやポップスにヨーデルを組み合わせる試みも進んでおり、
古典とモダンが共存する“生きた文化”として世界に広がっています。
ヨーデルとは、声を「切り替える」だけでなく、声を「解き放つ」芸術です。
『アルプスの少女ハイジ』が象徴するように、自然とともに歌うその姿勢は、
時代を超えて私たちに“声の自由”を思い出させてくれます。
さあ、胸と頭を行き来しながら、あなたの中のアルプスを響かせてみましょう。