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なぜ日本のJ-POPは高音が多いのか?歴史と文化を深掘り!
高音の曲が流行る理由を考える

目次
最近のヒット曲はとにかく高い!J-POP高音事情
近年のJ-POPを聴いていると、「この曲、ちょっと高すぎない?」と感じる場面がよくあります。実際、ヒット曲の多くがサビやラストでhiB(B4)以上の高音を使用しており、地声で歌い切ることが求められるケースも増えています。
例えば、米津玄師「Lemon」は男性曲としてはかなり高いB4(hiB)に到達します。頻繁に登場するわけではありませんが、感情のピークに合わせて効果的に高音が配置されています。
Official髭男dism「Pretender」は、地声でC5(hiC)まで上がり、さらに裏声でC#5(hiC#)に達します。男性がこの音域を地声的な響きで歌うのは非常に難易度が高く、「高音系J-POP」の代表例といえるでしょう。
女性曲では、Ado「うっせぇわ」がラストでD#5(hiD#)に達し、YOASOBI「夜に駆ける」は転調後にF5(hiF)まで跳ね上がります。これはピアノの高い「ファ」の音で、一般的な女性でも裏声を駆使しなければ出しづらい領域です。
こうした例を見ると、単に「音が高い」というだけでなく、高音そのものが楽曲の盛り上がりを象徴する“武器”として使われていることがわかります。
高音ブームはいつから始まった?時代背景をたどる

J-POPの高音志向は、突然始まったわけではありません。1990年代後半〜2000年代初頭にかけて、少しずつ形成されていきました。
ひとつの転機となったのは、小室哲哉プロデュース作品の台頭です。globe「DEPARTURES」(1996)は地声hiC#〜裏声hiD#を使い、当時としては非常にハイトーンなサウンドでした。安室奈美恵、trfなども、ダンスビートに乗せて伸びやかな高音を聴かせるスタイルで一世を風靡しました。
2000年代にはMISIA、宇多田ヒカル、平井堅といった歌唱力重視のシンガーが登場し、裏声やフェイクを駆使した繊細な高音表現が注目されます。この頃から「高音=歌がうまい」という価値観が一般に広まり始めました。
そして決定的だったのが、2003年に登場したカラオケDAMの「精密採点」機能です。高得点を目指して練習する文化が広がり、自然と「高音を出せる人はスゴい」という評価が定着しました。2007年以降は「歌ってみた」文化の拡大により、ハイトーン曲をカバーする動画がネットで拡散され、若者の間で高音志向が強化されていきます。
なぜ高音の曲は人気が出るのか?心理と文化の視点から
高音の曲が人気を集めるのには、いくつかの理由があります。
まず、心理学的には音が高くなると「情動の高まり」を感じる傾向があります。人間は驚いたり感情が昂ぶったりすると自然と声が高くなるため、サビで高音に上がると「ここが盛り上がりだ!」と直感的に伝わるのです。
次に、言語的な背景も関係しています。日本語は英語のような強弱アクセントではなく、ピッチ(高低)アクセントの言語です。つまり、強弱よりも音程の上下によって意味や印象が変わるため、音高の変化が感情表現と直結しやすい構造になっています。高音を使うことで、感情のピークを自然に演出できるのです。
さらに、高音には解放感(カタルシス)があります。米津玄師「Lemon」のサビやYOASOBI「夜に駆ける」のラストで高音に突き抜ける瞬間、多くのリスナーは「スカッ」とした感覚を覚えるはずです。これは音楽的構造と人間の感情が見事に一致している証拠といえます。
高音を支えたテクノロジーと歌唱法の進化
高音ブームの裏には、録音技術と歌唱技術の進化もあります。
レコーディングでは、コンデンサーマイクやDAW(音楽制作ソフト)の高性能化により、従来録りにくかった高域のニュアンスがきれいに収録できるようになりました。これにより、作曲側も「思い切ってサビを高くする」発想がしやすくなっています。
また、ミックスボイスやベルティングといった発声法の普及も大きな要因です。特に男性ボーカルでは、かつて裏声で処理していたG4〜C5あたりを地声的な響きで歌う技術が広まり、ヒゲダンやback numberなど、多くのアーティストが高音を“地声で”聴かせるスタイルを確立しました。
今後のJ-POPはどうなる?高音ブームの未来予想
ここまで高音志向が続くと、「この傾向はいつまで続くの?」という疑問も湧いてきます。実は2020年代に入ってから、少しずつ変化の兆しが見え始めています。
藤井風や優里の一部楽曲のように、中低音域で感情を丁寧に表現するスタイルが人気を集めています。YOASOBIのikuraも、極端な高音を連発するというよりは、ナチュラルな声質を活かした歌唱へシフトしつつあります。
一方で、ボカロ・VTuber文化の影響で、C#6〜D#6といった“人間の限界を超える”高音を含む楽曲も人気を維持しています。今後は以下のような複数路線が共存していくと考えられます。
- 人間の限界に挑戦する「超高音派」
- 自然な声の魅力を重視する「中音派」
- 機械と人間の融合による「ハイブリッド派」
つまり、高音はこれからもJ-POPの重要な要素であり続けるものの、その表現方法はより多様化していくでしょう。
まとめ:高音は「日本の歌」の象徴になった
J-POPの高音志向は、単なる流行ではなく、文化・心理・言語・技術が絡み合って形成された現象です。90年代の小室ファミリー、2000年代の歌唱力シンガー、カラオケ採点や歌ってみた文化、発声技術の普及――こうした流れの積み重ねが、現在の「高音=J-POPらしさ」という価値観を作りました。
今後は多様なスタイルが並行するでしょうが、高音がリスナーの心を揺さぶる“見せ場”であることは変わりません。サビで突き抜けるあの一瞬――それこそが、日本のポップスの代名詞になっているのです。