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歌詞にオノマトペを活用している名曲
歌詞×オノマトペの化学反応
目次
オノマトペとは?
日本語は、「オノマトペ」とよばれる種類の単語を豊富に持つ言語です。オノマトペとは、音をまねた擬音語や、音を伴わない状態や感覚を表す擬態語の総称です。
例えば「ドキドキ」「ワクワク」「キラキラ」「ざーざー」「ゴロゴロ」などは、日常生活でも頻繁に使われています。英語にも「bang」や「buzz」などの擬音語はありますが、日本語のオノマトペは音と感情・雰囲気を一体化して伝えるという点で非常にユニークです。
この特徴が音楽に取り入れられると、単なる言葉以上の「演出装置」として機能します。今回は、その効果をじっくり見ていきましょう。
歌詞でオノマトペを使うと何が起きるのか
歌詞の中にオノマトペを入れると、リズムやサウンドがより直感的に身体に響くようになります。たとえば「ポンポン」「きゅん」「ギラギラ」といった言葉は、それ自体がメロディに乗ったときに楽器のような役割を果たします。
さらに、抽象的な感情を言語化しにくいときでも、オノマトペを使えば感覚をそのまま伝えるショートカットになることがあります。たとえば「胸がドキドキする」や「心がふわふわする」は、理屈抜きにイメージが浮かびますよね。
また、ポップスではオノマトペがリズムの隙間を埋めることで、楽曲全体のグルーヴ感を高める効果もあります。ときには、英語のスキャット(例:doo-wopやla-la-la)に近い使い方をするケースもあります。
オノマトペが光る名曲たち
ここからは、実際にオノマトペが印象的に使われている日本のヒット曲を紹介していきます。いずれも、ただ面白いだけでなく、楽曲の世界観を支える重要な要素となっています。
きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」
2011年にリリースされたきゃりーぱみゅぱみゅのデビュー曲「PONPONPON」。サビで繰り返される「PON PON」は、まるでポップな風船が弾けるような軽快さ。
楽曲全体がカラフルで、音も映像もビジュアルも、すべてが「PON」という単語に似つかわしい作品です。この曲がYouTubeで爆発的に拡散し、海外にも波及した背景には、意味よりも音とノリの快感があったとも分析されています。
言語学の観点では、「ぱぴぷぺぽ」という音は、それ自体が楽しげな印象を与えることができると考えられています(音象徴)。
稀代の”ポップ”シンガーであるきゃりー”ぱみゅぱみゅ”の”PONPONPON”がヒットするのは、当然の現象ともいえそうですね。
米津玄師のオノマトペ表現:「flamingo」と「感電」
米津玄師はオノマトペの使い方が非常に巧みなアーティストです。2018年の「Flamingo」では、サビで「フラフラフラフラ」と繰り返すフレーズが印象的です。この「フラフラ」は、曲全体に漂う不安定さ・揺らぎ・妖しさをそのまま音にしています。そのまま「フラミンゴ」に続くというダジャレ的なフレーズも格好よくしてしまうのが、米津玄師の力なのだと感嘆せざるを得ません。
さらに2020年の「感電」では、「わんわんわん」「にゃんにゃんにゃん」という歌詞が登場します。これは明らかに童謡「犬のおまわりさん」を想起させるフレーズで、真面目な曲の中に突然差し込まれることで、強烈な印象と軽妙な遊び心を与えています。この楽曲が「MIU 404」という刑事ドラマの主題歌として制作されたことを考えると、「そう来たか!」という楽しさを提供してくれます。
米津の楽曲は全体的に音像の作り込みが緻密ですが、このようなオノマトペの挿入によって、リスナーの記憶に強く残る「フック」を生み出しているのです。
日向坂46「キュン」
アイドルソングにおいても、オノマトペは非常に重要な役割を担っています。日向坂46のデビューシングル「キュン」は、そのタイトルからして擬態語です。
「キュン」は、胸が締め付けられるような恋のときめきを表す擬態語で、言葉にしづらい感情を一瞬で伝えます。明るく弾むメロディに「キュン」という言葉が乗ることで、恋の始まりの甘酸っぱさがそのまま音楽として表現されているのです。
このような擬態語は、アイドルソングの持つ「感情の直送便」として機能し、ファンの共感を引き出します。
Ado「ギラギラ」
作詞、作曲をボカロPのてにをはが手掛けた、Adoの「ギラギラ」は、感情をオノマトペで直接表現する好例です。タイトルにもなっている「ギラギラ」は、光の強さやギラつきを表す擬態語ですが、同時に内面の荒々しさ・強烈さを象徴する単語でもあります。
Adoのパワフルなボーカルと、鋭いサウンドに「ギラギラ」という言葉が重なることで、聴き手の心にもビリビリと響く感覚が生まれます。このように、擬態語は感情を抽象的に語るのではなく、感情そのものを音として届ける力を持っているのです。
まとめ:オノマトペは「第3の楽器」
オノマトペは、単なる言葉ではありません。それは声と音楽の中間にある、音楽的な表現装置です。日本語のポップスが独自の進化を遂げてきた背景には、この豊かなオノマトペ文化が深く関係しているともいえるでしょう。
きゃりーぱみゅぱみゅの「PONPONPON」から、米津玄師の繊細な音遊び、日向坂46の「キュン」、Adoの感情の爆発まで。これらの楽曲は、いずれもオノマトペを戦略的に使うことで、リスナーの心と身体に直接訴えかける力を持っています。
次にJ-POPを聴くときは、ちょっと意識してみてください。あなたの好きな曲にも、きっと何気なく仕込まれた「音の魔法」が隠れているはずです。