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2025.10.14
コラムオルタナティブロックとは何なのか。その本質を探る
オルタナティブである、ということ
「オルタナティブロック」という言葉を聞いて、どんな音を思い浮かべるでしょうか。
Nirvanaの激しいギター? Radioheadの不思議なコード進行? それともスーパーカーやNUMBER GIRLのような、90年代の“ちょっとひねたロックバンド”?
実は「オルタナティブロック」という言葉、ジャンル名のように使われながらも、実態は非常に曖昧です。
この記事では、オルタナティブロックの成り立ちや代表的なアーティストを紹介しながら、「ジャンルとしてのオルタナは成立するのか?」という根源的な問いを掘り下げていきます。
1. オルタナティブロックとは?
オルタナティブロック(Alternative Rock)は、1980年代以降のロックにおいて、主流(メインストリーム)の音楽に対する「もう一つの選択肢(Alternative)」として生まれたスタイルです。
この「Alternative(代替)」という言葉こそが肝で、具体的な音楽的特徴というよりも、商業的・産業的な主流とは異なる方法で音楽を作り、発表していたアーティスト群を指すことが多いのです。つまり、「音」よりも「立ち位置」でくくられていたジャンルなのです。
初期のオルタナティブは、当時のロック界の中心であったアリーナロックやヘヴィメタルに対し、インディペンデント・レーベルを拠点としたバンドたちが対抗的に活動していた文脈の中で形成されました。
2. オルタナティブロックの歴史と代表的なアーティスト
1980年代:インディーから始まった「オルタナ」
アメリカでは、R.E.M.やThe Replacements、Sonic Youthなどが「主流ではないが独自の音」を追求し、大学ラジオ局などから人気を広げました。当時は「カレッジ・ロック」と呼ばれることもありました。
1990年代前半:Nirvanaによる爆発
1991年、Nirvanaのアルバム『Nevermind』が全米で爆発的ヒットを記録。オルタナティブロックはメインストリームに一気に浮上します。「Smells Like Teen Spirit」はMTVで大量に流され、グランジ(シアトルのローカルシーン)も巻き込みながら世界的ムーブメントとなりました。
この時期、Pearl Jam、Soundgarden、Alice In Chainsなどのグランジ勢、さらにSmashing PumpkinsやRadiohead、Beckなど、多彩なサウンドを持つアーティストが「オルタナ」と総称されました。
1990年代後半~2000年代:多様化と拡散
一度メインストリームに入ってしまったオルタナティブロックは、その後、方向性が枝分かれします。Radioheadは『OK Computer』(1997)で実験的サウンドへ、Beckはヒップホップやフォークの要素を融合、Smashing Pumpkinsは壮大なサイケロックへと展開しました。
日本におけるオルタナティブ
日本では、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、NUMBER GIRL、スーパーカー、ナンバーザ(The Pillows、くるり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなど)といったバンドが、J-POPとは異なる文脈で活動。特にNUMBER GIRLは、NirvanaやSonic Youthの影響を受けたノイジーなギターと、日本語詞の切れ味で多くのバンドに影響を与えました。
また、スーパーカーはエレクトロニカを早期に取り入れた音作りで、後のJ-ROCKの音像にも大きな影響を残しています。
3. 「ジャンルとしてのオルタナ」は成立するのか?
ここで一つの問題があります。「オルタナティブロック」というのは、果たして“ジャンル”と言えるのでしょうか?
たとえば、「パンクロック」はコード進行、テンポ、演奏スタイルなど、比較的明確な音楽的特徴があります。「メタル」もしかり。ところが「オルタナ」には、それがないのです。
オルタナティブロックという言葉は、当初は音楽業界の外側にあったバンドをまとめる“傘”のような言葉でした。しかしNirvanaの成功以降、その傘の下にいた多種多様なバンドが一斉に表舞台に出てきたことで、「オルタナ=メインストリーム」になるという逆転現象が起きます。
つまり、「ジャンルとして成立するほど音楽的特徴が共通しているわけではない」のです。むしろ「何かに似ていない」「既存のジャンルに収まりきらない」ことが、オルタナティブと呼ばれる理由と言ってもよいでしょう。
裏を返せば、「あのバンド、オルタナっぽいよね」と言える時点で、その音楽はすでに“別の何か”にカテゴライズされつつある、という矛盾をはらんでいます。
4. オルタナティブの本質を探る
ここまで見てきたように、「オルタナティブロック」という言葉は、音楽的なジャンル名というより、時代や文脈によって変化する“態度”や“立ち位置”に近いものです。
たとえばRadioheadは、ギターサウンド中心の『The Bends』(1995)ではブリットポップ寄りでしたが、わずか2年後の『OK Computer』で一気に実験的な方向へと舵を切りました。それでも彼らは「オルタナ」と呼ばれ続けています。なぜなら、彼らが常に「メインストリームのど真ん中の音」ではない場所を探し続けてきたからです。
オルタナティブという言葉には、「反抗」でも「拒絶」でもなく、メインストリームとは異なる回路で表現を探求する姿勢が内包されています。ジャンルとして一括りにできないほど多様であることこそ、オルタナの本質なのです。
5. まとめ
オルタナティブロックは、「主流とは違う道を行く」という精神から生まれました。R.E.M.やSonic Youthのようなインディー黎明期のバンド、Nirvanaによる爆発的なメインストリーム進出、そしてRadioheadやBeckによる多様な展開……。
その音楽的特徴は一様ではなく、「ジャンル」として厳密に定義することは難しい。むしろ、その曖昧さこそが、オルタナティブロックの魅力であり本質です。
もしあなたが「なんかこのバンド、ジャンル分けしづらいな」「ちょっと変わってて面白いな」と感じたなら――それはすでに、オルタナティブの扉を叩いているのかもしれません。